僕が芸術家として最も尊敬しているのが、「芸術は爆発だ」という言葉で知られる岡本太郎です。
2年前に各地で開かれて話題を呼んだ、「展覧会 岡本太郎」にも訪れました。
岡本太郎の若い時から晩年までのさまざまな作品が展示されており、その力強さには圧倒されるしかありませんでした。
岡本太郎は非常に複雑で難解な思考、感性を持った人だというのが、作品を見るとよく分かります。
正直いってほとんどの作品が理解できませんでした。
しかし彼は、見た人にそう思わせることこそ理想だと考えていたそうです。
「芸術はうまくあってはいけない。きれいであってはならない」という彼の言葉が象徴しているように、ありのまま上手く描いているから芸術性が高いとは考えていませんでした。
難解ではありますが、彼の作品には社会や人生に対しての強烈なメッセージが隠れています。
例えば渋谷駅の壁画になっている「明日の神話」という作品は、第五福竜丸が被爆した際の水爆実験がモチーフになっています。
最も有名な作品である「太陽の塔」の完成にも、彼らしい思想と意図が秘められています。
当時開催された大阪万博のテーマは「進歩と調和」で、そのテーマに合わせた作品を依頼されていました。
しかし彼は「人類は進歩も調和もできていない」と考え、あえて人類と反対の概念である自然の象徴としての太陽をモチーフにしました。
なんとも彼らしい、へそ曲がりで痛快なエピソードです。
太陽の塔は最近内部も公開されるようになっていて、僕も見に行きました。
内部の空間は「生命の樹」という作品に貫かれていて、生命が誕生してから現在に至るまでのさまざまな生物が、下から上に向けて順番に取りつけられています。
これを見た時の衝撃は今でも強く覚えています。
生命というものの偉大さに圧倒されて、しばらく立ち尽くしました。
おもしろいと思ったのは、一番上の人間がとても小さく作られていることです。
生命の進歩の歴史の中では、人類というのはちっぽけで豆粒のような存在にすぎません。
まさに「人間がそんなに偉いのか」という、万博のテーマに対するアンチテーゼを感じました。
表現をするというのは自分の思想、価値観をぶつけることであり、無限の可能性を秘めたものです。
それは難解なものであっても、ときに誰かの考え方を揺り動かすかもしれません。