「進撃の巨人」から侵略について考える

 

現在ロシアによるウクライナへの侵略やパレスチナの問題が、国際社会で波紋を呼んでいます。
いつの時代でも侵略を行う側は、何らかの正義を掲げてその行為を正当化しようとします。


例えばロシアのウクライナへの侵略については、東方へと拡大を続けるNATOからの防衛というのがロシア側の言い分です。
長い歴史の中でロシアはヨーロッパ諸国から何度も侵略を受けており、そのことに反感や脅威を感じているのは事実です。


しかしだからといって、他国への侵略というのは絶対に許されることではありません。

当然第三者としてこの事態をニュースで聞いている我々は、「どうしてそのようなひどいことをするのか」という感覚を持つことができます。


ところが不思議なことに、侵略している側はそこまで客観的に自分たちのしていることを認識することができないのです。
もちろんその国の全ての人がそうだというわけではなく、ロシアの中でも侵略に反対する声が強くあることから一概にはいえません。

しかし歴史的に、どの国でも国民にそのような傾向が生まれやすいことは確かだと思います。


例えばアメリカで9・11のテロが起きた直後、アメリカ国民は「対テロ戦争」と称した中東への攻撃を進めるブッシュ大統領を熱狂的に支持しました。
日本で考えてみても、かつての戦争でのアジア諸国への侵略行為を「アジア解放のための戦争であった」とか、「防衛のためにやむをえなかった」という主張が未だに根強くあります。
客観的に見れば侵略としか思われないようなことでも、自分の所属する国家や民族の行為となると批判的に見ることができず、正当化できてしまうというのは警戒するべきことです。

 

この問題を考えるうえで良い材料になるのが、ついこの前最終回を迎えたアニメ「進撃の巨人」です。
進撃の巨人」はエルディアとマーレという2国家間の対立、戦争が物語の中心となっています。


この2国家は長い歴史の中でお互いに虐殺を繰り返してきており、主人公でエルディア人のエレンは復讐のためにマーレをはじめ諸外国への侵略を始め、大虐殺を企みます。
これに対してかつてのエレンの仲間であるミカサ、アルミンといった人たちは、マーレ側と協力してエレンを止めるための戦いを始めました。
彼らはエルディア人でありながらも、「エルディアのためであれば何をしてもいいのか」という疑問を持って行動を起こすのです。

 

彼らがかつての敵であるマーレ側と手を結ぶ際に話し合いが行われますが、お互いに憎しみと復讐心が強くて上手くまとまりませんでした。
そんな中でマーレの少女であるガビは、エルディア側の事情を何も知らなかったことを認めたうえでひどいことをしたと謝罪をします。


自分たちの国家による侵略を正当化する人間が多いなかで、相手側の主張を理解したうえで自らの非を認めるというのは難しいことです。
しかしそういう人間が現れることが、侵略の悲劇を止めることに大きくつながるはずです。

 

このシーンでは、「俺たちはまだ話し合ってない」というセリフが登場します。
エルディア人もマーレ人も殺し合いを繰り返してきていながらも、お互いに相手の主張を聞いて意見を交えたのはこの時が初めてだったのです。


国家同士にしても人間同士にしても、対立が起きている時とは案外そういうものかもしれません。
敵への憎悪が強い時であっても、どれだけ相手の立場を理解して客観的になれるかが肝心であり、そのためには対話が欠かせません。